職場のメンタルヘルス対策完全ガイド|企業の安全配慮義務と対応

職場のメンタルヘルス対策は、現代の企業経営において、もはや「努力目標」や「福利厚生」の範疇を超え、企業の存続と直結する重大な 経営リスク であり、かつ 法的義務の核心です。対策が不十分であれば、労働契約法第5条に基づく「安全配慮義務」に違反し、企業は甚大な損害賠償リスクに直面します。さらに、目に見えない形で企業の生産性を損なうプレゼンティーズム(不調を抱えながら出勤し、生産性が低下している状態)による経済損失は年間数兆円規模に上ると試算されており、適切なメンタルヘルス対策は単なるコストではなく、企業の競争力を高めるための最重要投資となっています。
本コラムは、これからメンタルヘルス体制の構築や見直しを検討している経営層や人事担当者、管理職の皆様に向けて、法的要件、経済的影響、そして厚生労働省が定める具体的な対策のロードマップ(予防の3段階と4つのケア)を、外部専門家との連携を含めて網羅的に解説しています。1万文字を超えるボリュームとなっていますので、お時間が無い方、対策のポイントだけ押さえておきたい方は、資料ダウンロードをお申し込みください。お申し込み後、すぐにダウンロードいただけます。
本記事でわかること
- 企業が負う「安全配慮義務」の法的要件と、メンタルヘルス対策を怠った場合の深刻な法的・経済的リスク。
- 安全配慮義務違反として多額の賠償金を支払うことになった判例と、その影響。
- メンタルヘルス不調による年間約7.6兆円の生産性損失の内訳と、その対策による投資対効果。
- 厚生労働省が推奨する「セルフケア」「ラインケア」「事業場内スタッフ」「外部資源」の4つのケアの具体的な役割と実践方法。
- 不調の未然防止(一次予防)、早期発見(二次予防)、円滑な職場復帰(三次予防)を実現するための具体的なロードマップ。
目次
1. 企業の根幹を揺るがすメンタルヘルス問題

メンタルヘルス対策は、もはや従業員の健康管理という側面だけでなく、企業経営における最も重要なリスクマネジメントの一環として位置づけられています。メンタルヘルス対策の有無が、企業の存続、評判、財務状況に直接影響を及ぼします。
1.1. 企業に課せられた安全配慮義務の法的要件
企業(使用者)は、労働者(従業員)の生命、身体、健康を危険から守り、安全に働けるよう必要な配慮を行う安全配慮義務を労働契約法第5条に基づき負っています。この安全配慮義務における「生命、身体等の安全」には、精神的健康(メンタルヘルス)も含まれることが明確になっています。
安全配慮義務違反の深刻な影響と民事上の責任
企業が安全配慮義務を怠った結果、従業員がメンタルヘルス不調や精神疾患により休職、退職、あるいは自死に至った場合、企業は民事上の責任を負うことになります。法的根拠は、労働契約上の安全配慮義務を果たさなかったとする債務不履行(労働契約法第5条、民法第415条)や、不法行為(民法第709条、第715条)です。
安全配慮義務違反が問題となるケースには、長時間労働・過重労働の放置、ハラスメント行為の放置や不十分な対策、メンタルヘルス不調の兆候を見逃し適切な対応を取らなかった場合などがあります。法的措置による損害賠償は直接的な財務損失となるだけでなく、企業の社会的信頼性(レピュテーション)を大きく損ない、長期的な採用競争力と企業価値を毀損します。
判例
1990年4月に新卒採用された電通の従業員(当時24歳)が、慢性的な長時間労働に従事し、入社約1年5か月後の1991年8月にうつ病を発症して自殺した事案です。従業員の1か月あたりの残業時間は147時間にも及んだとされています。遺族が会社に対して損害賠償を請求しました。
本判決により、企業は約1億6,800万円の賠償金を支払うことで和解しました。この判決は、「過労自殺」という概念を初めてクローズアップさせ、企業のメンタルヘルス管理責任を明確にした判決として、その後の労働安全衛生対策に大きな影響を与えています。
1.2. 対策未実施が招く深刻な経済リスク:年間7.6兆円の損失
メンタルヘルス対策の必要性は、単なる安全配慮義務の履行に留まりません。対策を怠ることは、企業の直接的な経済損失に直結します。
メンタルヘルス不調による生産性損失の定量化
メンタルヘルス不調が日本全体にもたらす経済的な損失は、年間約7.6兆円に上ると推計されています。この巨額の損失額は、日本のGDPの1.1%に相当し、精神疾患の医療費の実に7倍にも達する規模です。この試算は、目に見えにくいメンタルヘルス不調の影響を金額で可視化したものであり、適切な対策が必要であることを示しています。
プレゼンティーズムの巨額な影響
この7.6兆円という損失の大部分は、休職や退職(アブセンティーズム)によるものではなく、体調不良やメンタルヘルス不調を抱えながらも出勤し、生産性が低下している状態、すなわち「プレゼンティーズム」に起因しています。
プレゼンティーズム対策、すなわち不調の早期段階での気づきと介入(一次予防・二次予防)を強化することは、業務効率を直接改善する投資であり、企業のROI(投資対効果)を最大化する戦略的手段となります。
| 損失項目 | 定義 | 日本の年間推計損失額(主因) | 企業への影響 |
|---|---|---|---|
| プレゼンティーズム (Presenteeism) | 不調を抱えながら働くことによる生産性の低下 | 年間約7.6兆円 | 潜在的な業務効率の低下、競争力の損失 |
| アブセンティーズム (Absenteeism) | 休業・欠勤による労働力損失、補充コスト | プレゼンティーズムの損失額に比べて小さい | 労務管理上の直接的コスト、人員欠損リスク |
| 損害賠償・訴訟費用 | 安全配慮義務違反等による法的コスト | 個別事案により甚大 | 企業信頼性の毀損、財務的打撃 |
1.3. 職場のメンタルヘルス対策、企業の現状と動向
公的統計データは、メンタルヘルス問題が多くの企業にとって喫緊の課題であることを示しています。
- 労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査によると、2023年時点で、連続1カ月以上休業した労働者がいる事業所の割合は10.6%に及びます。
- メンタルヘルス対策に何らかの形で取り組んでいる事業所の割合は63%にとどまっており、約4割の企業が未だ十分な体制を確立できていません。
メンタルヘルス対策未実施の企業は、前述の安全配慮義務違反のリスクと、年間7.6兆円に上る経済的損失を内包し続けている状態であり、経営の継続性を確保するためには迅速な体制構築が求められます。
2. メンタルヘルスケアにおける予防の3段階と4つのケア

効果的なメンタルヘルス対策は、場当たり的な対応ではなく、体系化された構造に基づいています。厚生労働省は、メンタルヘルス対策を予防の3段階に分類し、職場における対策の基本指針として4つのケアを提唱しています。これらのフレームワークを理解し、組織的に実践することが、安全配慮義務の履行とリスクの最小化につながります。
2.1. 厚生労働省が提唱する4つのケアの定義と役割
職場のメンタルヘルスケアは、労働者、管理監督者、産業保健スタッフ、そして外部専門機関が、それぞれの役割を分担しながら連携して進める必要があります。
1. セルフケア
セルフケアとは、労働者自身がストレスに対する気づき(ストレスへの自覚)を持ち、これに対処(セルフコントロール)する能力のことです。企業は、ストレス対処法やメンタルヘルスに関する正しい知識を習得させるための教育(一般社員向け研修など)を定期的に実施し、セルフケアを促進します。
2. ラインによるケア(ラインケア)
ラインケアは、管理監督者(上司)が日常業務を通じて行うケアであり、4つのケアの中で最も重要な役割の一つです。管理監督者は、職場環境の把握と改善、部下の変化への気づき、相談対応と専門家への連携という役割を担います。管理監督者が部下の状態を評価するのではなく、健康問題として専門家へつなぐ視点が不可欠です。
3. 事業場内産業保健スタッフなどによるケア
産業医、保健師、衛生管理者、人事労務スタッフなど、企業内部にいる専門家によるケアです。彼らは、メンタルヘルスケアの具体的な実施に関する企画立案、ストレスチェックの結果分析、高ストレス者への面接指導、休職・復職に関する専門的な指導を行います。
4. 事業場外資源によるケア
企業外の専門機関(EAPサービス提供機関、日本産業カウンセラー協会などの専門団体)を活用するケアです。社内では相談しにくい問題や、内部資源(産業医や保健師)が不足している場合に、中立性と高い専門性を提供します。外部資源は、メンタルヘルス不調の未然防止段階(一次予防)から活用できる戦略的な資源として位置づけられます。
2.2. 対策を体系化する予防の3段階と4つのケアの連携
4つのケアを効果的に機能させるためには、メンタルヘルス不調の進行度に応じて、「予防の3段階」に体系化して組み込む必要があります。この体系化により、メンタルヘルス対策の抜け漏れを防ぎ、リスクの進行を食い止めることが可能になります。
| 予防段階 | 目的 | 主な活動(4つのケアとの関連) | 中心的な実施主体 |
|---|---|---|---|
| 一次予防 (未然防止) | ストレス原因の低減、職場環境の改善 | セルフケア/ラインケア研修、労働時間管理、ハラスメント防止対策 | 経営層、人事労務、管理監督者、外部資源 |
| 二次予防 (早期発見・対応) | メンタルヘルス不調者の早期発見、迅速な専門家への連携 | ストレスチェック実施、管理職による兆候の把握、専門スタッフによる面談 | 産業保健スタッフ、管理監督者、人事 |
| 三次予防 (職場復帰・再発防止) | 治療後の円滑な復職、再発の防止 | 職場復帰支援プラン策定、段階的な業務復帰、継続的なフォローアップ | 産業医、主治医、人事、管理監督者 |
ケアの構造的欠陥を防ぐ連携の必要性
ストレスチェックは、義務化された二次予防の柱ですが、その真の価値は、高ストレス者への面接指導後の職場環境改善にフィードバックされる点にあります。特に、産業保健スタッフが不足しがちな事業場では、この重要なフォローアップ機能が麻痺しやすく、対策が単なる形式的な安全配慮義務の履行で終わってしまうリスクがあります。外部の専門家による支援(事業場外資源によるケア)を導入することは、内部資源の限界を補い、4つのケアのバランスを保ち、二次予防から三次予防への移行を円滑にする決定的な戦略となります。
3. 一次・二次・三次予防における具体的な対策ロードマップ

3.1. 一次予防:ストレス耐性の強い組織を作る環境整備
一次予防は、不調が発生する前にストレスの原因そのものを低減し、職場全体の抵抗力(リテラシー)を高めることを目的とします。これにより、年間7.6兆円の経済損失の主因であるプレゼンティーズムの発生を根本的に防ぐことが可能になります。
労働環境改善とハラスメント対策の徹底
一次予防の最も効果的な手段は、労働時間管理の徹底です。長時間労働の是正、有給休暇の取得促進、多様な働き方を支援する制度の導入は、メンタルヘルス向上に直接的に寄与します。
また、企業にはハラスメント防止法により、ハラスメント防止措置の実施が義務付けられています。規定の整備、周知・啓発のための研修の実施、およびハラスメント相談窓口の設置と適切な対応は必須です。ハラスメント対策の不備は、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務違反の具体的な原因の一つとなります。
メンタルヘルスリテラシーの向上
ストレス耐性の高い組織を作るためには、従業員一人ひとりのメンタルヘルスに対する意識改革と、対応能力の向上が不可欠です。
- セルフケア研修: 一般社員向けに、ストレスへの気づき方、ストレス対処法、メンタルヘルス不調の兆候などに関する研修を実施します。
- ラインケア研修: 管理職向けに、部下の変化の兆候を把握する能力、部下からの相談の受け方・聴き方の基本、プライバシーに配慮した対応方法などを習得させます。
3.2. 二次予防:早期発見のためのストレスチェック制度の運用
二次予防は、メンタルヘルス不調を早期に発見し、速やかに適切かつ専門的な介入へつなげる段階であり、その中心となるのがストレスチェック制度です。
ストレスチェック後の法的対応と報告義務
常時50人以上の労働者を使用する事業場は、労働安全衛生法に基づき、年に1回、ストレスチェックを実施することが義務付けられています。実施後、企業はストレスチェックと医師による面接指導の実施状況を労働基準監督署へ報告しなければなりません。この報告を怠った場合、罰金が科せられる可能性があるため、厳格な運用が必要です。
高ストレス者への面接指導
高ストレスと判定された労働者から申し出があった場合、企業は医師による面接指導を速やかに実施しなければなりません。医師は、企業の安全配慮義務の履行を支援するため、職場の改善点や就業上の措置(例:労働負荷の軽減、配置転換など)に関する意見を述べます。企業は、この意見を参考に、必要な措置を講じなければなりません。
プライバシー保護の遵守と信頼性の確保
メンタルヘルスに関する情報は、健康に関する機微な個人情報であるため、労働者の健康に関する情報の守秘と、労働者の意向を尊重することは、取り組みを効果的に進める上での基本条件となります。ストレスチェックの結果や面接指導の内容について、企業が労働者の同意なく不当に利用したり、人事評価に反映させたりすることは、信頼性を損なう行為として厳に禁止されています。
3.3. 三次予防:トラブルを防ぐための職場復帰支援プロセス
三次予防は、休職した労働者が円滑に、かつ安全に職場に復帰し、メンタルヘルス不調の再発を防止するための継続的な支援を行う段階です。このプロセスには、主治医、産業医、人事、そして管理監督者間の密接な連携が求められます。
復職支援の5つのステップ(厚労省指針)
- <第1ステップ> 病気休業開始及び休業中のケア: 休業中の労働者に対し、必要な事務手続きや職場復帰支援の手順を説明し、安心感を醸成します。
- <第2ステップ> 主治医による職場復帰可能の判断: 労働者から職場復帰の意思表示と、主治医による「治療上復帰可能」と判断された診断書が提出されます。
- <第3ステップ> 産業医等による精査: 企業側が職場情報を提供し、産業医が主治医の判断を参考に、 職場での就業が可能か を専門的に精査します。
- <第4ステップ> 職場復帰の可否の判断及び支援プランの作成: 産業医の意見を踏まえ、企業が復帰の最終的な可否を判断し、具体的な「職場復帰支援プラン」(段階的な業務復帰や勤務時間の調整など)を作成します。
- <第5ステップ> 職場復帰後のフォローアップ: 復職後も定期的な面談を実施し、業務負荷が適切か、再発の兆候はないかを確認します。
三次予防の法的厳格性
企業は、職場の環境や業務内容を考慮した産業医の意見に基づき、具体的な職場復帰支援プランを策定し、実行する義務があります。この段階的かつ計画的な復帰プロセスを怠り、復帰直後に再発・悪化した場合、企業は安全配慮義務違反として訴訟リスクに直面します。そのため、質の高い職場復帰支援制度の構築は、安全かつスムーズな復帰を支える上で極めて重要な要素となります。
4. 日本産業カウンセラー協会による専門的かつ包括的なサポート

企業のメンタルヘルス対策を効果的かつ継続的に実施するためには、内部資源(産業保健スタッフ)の限界を補い、中立性と専門性を担保できる外部資源の活用が不可欠です。一般社団法人日本産業カウンセラー協会(JAICO)は、この「事業場外資源によるケア」の役割を担うことができる専門団体です。
4.1. 産業カウンセラー導入が企業にもたらす具体的なメリット
産業カウンセラーは、従業員のメンタルヘルス対策、キャリア形成、職場環境改善などを支援する専門家であり、その導入は単なる相談窓口の設置以上の戦略的メリットを企業にもたらします。
- メンタルヘルス向上による生産性アップ: 従業員が抱えるストレスの原因を特定し、自力で解決できるよう援助することで、メンタルヘルスが向上し、特にプレゼンティーズムに起因する生産性損失の改善が期待できます。
- 休職・離職者の防止と企業イメージアップ: 専門的なカウンセリング体制を社外に設置することで、従業員は安心して悩みを相談でき、不調の早期発見・早期解決が促進されます。結果として、メンタルヘルス不調に起因する離職率や休職率の低下、および従業員の健康を重視する企業姿勢による企業イメージアップにつながります。
- 支援領域の広さと専門性: 個人カウンセリングだけでなく、職場における人間関係開発や研修を通じて、働きやすい職場を作るための職場環境改善の提案も行います。彼らが提供する中立的な視点と高い専門性は、社内のメンタルヘルス対策を構造的に強化します。
4.2. メンタルヘルス対策サービスラインナップ
日本産業カウンセラー協会は、長年の実績と全国の産業カウンセラーのネットワークを活用し、企業のメンタルヘルス対策の取り組みを総合的に支援します。
組織体制構築・個別事例対応コンサルティング
人事や安全衛生担当者に対し、社内のメンタルヘルス対策の企画立案、必要な対策方法、複雑な個別事例(ハラスメント、復職支援など)への具体的な対応法といった実務的なコンサルティングを提供します。特に、内部に専門知識を持つスタッフが少ない企業にとって、メンタルヘルス対策の初期段階での専門家からの指導は極めて重要です。
企業・団体向け研修プログラム
4つのケアの土台となるリテラシー向上を目的とした研修プログラムが提供されています。これには、一般社員向けのセルフケア研修、管理職向けのラインケア研修、快適職場づくりを目的とした「アサーショントレーニング」などが含まれます。
EAP・カウンセリングサービス
従業員向けのEAP(Employee Assistance Program)や個別カウンセリングサービスを提供します。従業員は、人事や直属の上司に知られることなく、守秘義務を持つ外部の専門家へ安心して相談できる窓口を確保できます。
| サービスカテゴリ | 具体的な支援内容 | 4つのケアへの貢献 | 期待される効果 |
|---|---|---|---|
| 組織体制構築支援 | メンタルヘルス対策の企画立案、個別事例対応コンサルティング | 事業場内ケアの補完、ラインケアの指導 | 体系的な対策の確立とリスクの事前回避 |
| 企業・団体向け研修 | ラインケア、セルフケア、ハラスメント対策などの実践的研修 | セルフケア、ラインケアの能力向上 | 従業員リテラシー強化、早期発見能力の強化 |
| EAP・カウンセリング | 従業員への専門カウンセリング(定額制/従量制) | 事業場外資源によるケアの提供 | 心理的安全性の確保、離職率・休職率の低下 |
日本産業カウンセラー協会が提供する研修プログラムやコンサルティングの詳細、およびメンタルヘルスケアの全体像についてまとめた資料をご用意しています。
職場のメンタルヘルス対策の体制構築は、企業の持続可能性や安全配慮義務の履行に直結する課題です。本コラムの内容を深く理解し、具体的な計画立案にお役立ていただけるよう、詳細情報を資料にまとめました。お申し込み後、すぐにダウンロードいただけます。
5. 中小企業におけるメンタルヘルス対策の独自性とメリット

常時50人未満の小規模事業場には、産業医の選任義務やストレスチェックの実施義務(報告義務)は現行の法律上ありませんが、2028年を目途に義務化する方向で議論が進んでいます。更に、労働契約法に基づく安全配慮義務は、事業規模に関わらず同様に負っています。この安全配慮義務を履行し、従業員の健康を守るための効果的な手段として、内部に産業医や産業保健師を配置することが難しい中小企業では、事業場外資源との連携が最も重要な戦略となります。
経済効果の大きさ
中小企業がメンタルヘルス対策を講じるメリットは多大です。従業員が健康になることで生産性が向上し、業績アップにつながります。また、対策の充実が企業のイメージアップにもつながり、特に採用活動において優位性を発揮します。
6. 職場のメンタルヘルス対策に関するQ&A

Q1: ストレスチェックの結果を企業が閲覧することはできますか?
A1:企業(事業者)がストレスチェックの結果を労働者の同意なく閲覧することは原則としてできません。結果は健康に関する機微な個人情報であり、個人情報保護法および厚生労働省の指針に基づき厳重に保護されています。ただし、医師による面接指導が必要とされた高ストレス者のうち、労働者本人が企業への情報提供に同意した場合の結果と、集団分析の結果(個人が特定されない形での職場ごとのストレス傾向のデータ)については事業者に提供されます。
Q2: 従業員がストレスチェックの受検や面接指導を拒否した場合、強制できますか?
A2:労働者にはストレスチェックの受検や、高ストレス者として選定された後の医師による面接指導を拒否する権利があるため、企業が強制することはできません。企業が取るべき対応は、制度の意義や面接指導の重要性(健康管理上のメリット)を丁寧に説明し、自主的な受検や面接指導を促すことです。また、EAPサービスなどの事業場外資源を活用している場合はその存在を伝え、安心して利用できる環境を提供することが重要です。
Q3: メンタルヘルス不調のサインが見られる従業員に、管理職としてどのように声をかければ良いですか?
A3:管理職が部下のメンタルヘルス不調のサインに気づいた場合、プライバシーに配慮しつつ、健康問題として声をかけることが重要です。
- 具体的事実に基づく声かけ: 「最近、残業が増えているようだけど、体調は大丈夫ですか?」のように、観察された具体的な事実に基づいて質問し、抽象的な評価や詮索は避けてください。
- 傾聴の姿勢: 相談を受けたら、相手の話を遮らず丁寧に聴く姿勢を保ち、共感を示します。
- 専門家への連携: 事業場内だけでの解決を試みず、企業が提供している産業医や事業場外資源など、速やかに専門家へつなぐ。
Q4: 安全配慮義務違反で損害賠償請求を受けた場合、企業はどのような責任を負いますか?
A4:企業は、労働契約法第5条に基づく債務不履行責任、または民法第709条・第715条に基づく不法行為責任を負います。具体的には、従業員の休業中の逸失利益(本来得られたはずの賃金)、治療費、慰謝料などが損害賠償の対象となります。事案によっては数千万円に上る賠償が命じられることもあります。また、訴訟による企業のレピュテーション(信用)の低下、採用活動への悪影響、および訴訟対応に要する時間的・経済的コストも無視できない影響となります。
Q5: 産業カウンセラーは産業医や保健師とどう違うのですか?
A5: 産業医や保健師は、医学的専門性に基づき、健康診断、長時間労働者への面接指導、職場巡視など、主に健康管理や衛生管理の側面からケアを行います(事業場内産業保健スタッフなどによるケア)。一方、産業カウンセラーは、心理学的手法に基づき、従業員の心の健康対策、キャリア形成支援、職場における人間関係開発・職場環境改善を支援します。産業カウンセラーは、医師ではないため診断や治療は行いませんが、従業員の抱えるストレスや悩みに寄り添い、自らの力で解決できるための援助(カウンセリング)を提供します。両者は専門性が異なり、互いに連携することで、より包括的なメンタルヘルス対策が可能となります。
7. まとめ・資料ダウンロード

職場のメンタルヘルス対策は、もはや義務として受け身で対応するものではなく、企業の生産性、従業員の定着率、そしてブランドイメージを向上させるための戦略的な健康経営投資です。対策の不備が招く年間7.6兆円もの経済損失と、安全配慮義務違反による法的リスクを回避するためには、体系的なアプローチが不可欠です。
企業は、4つのケア(セルフケア、ラインケア、産業保健スタッフ、外部資源)を構造的に連携させ、特に一次予防(環境整備・リテラシー向上)に注力し、リスクの未然防止に努める必要があります。特に、内部資源が限られる中小企業や、体制構築の初期段階にある企業において、日本産業カウンセラー協会のような専門性の高い外部資源を活用することは、従業員の心理的安全性を高め、安全配慮義務の確実な履行と、持続可能な企業成長に直結する最短ルートとなります。
本コラムで解説した、メンタルヘルス対策の法的要件、安全配慮義務の履行、および具体的な実施手順に関する詳細情報を資料にまとめました。経営リスクの最小化と生産性向上の両立を目指す経営層・人事担当者の皆様は、ぜひご活用ください。お申し込み後、すぐにダウンロードいただけます。
8. 参考文献
- 労働契約法 第五条(安全配慮義務)
- 厚生労働省「こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」
- 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(4つのケア)
- 厚生労働省「職場復帰支援の手引き」
- 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)「ビジネス・レーバー・トレンド」
- 産業医科大学/日本肥満症予防協会 プレスリリース(メンタル不調の影響、年間7.6兆円の生産性損失試算)
- 厚生労働省「ストレスチェック制度 実施状況の報告義務と罰則」関連情報
この記事の執筆者

鈴木 勇太
1988年生まれ。福岡医療福祉大学人間社会福祉学部臨床医療福祉学科卒業。2010年に産業カウンセラー、2015年にキャリアコンサルタント取得。一般社団法人日本産業カウンセラー協会広報・広告部長。
この記事の監修者

木村 潤
1960年生まれ。宮崎大学大学院工学研究科工業化学専攻修了。一般社団法人日本産業カウンセラー協会九州支部支部長。
