ストレスチェックが50人未満の事業場も義務化|2028年4月施行

メンタルヘルス対策の待ったなしの現状と2028年4月の義務化
ストレスチェックは、常時50人以上の労働者を使用する事業場ではすでに義務であり、労働者数50人未満の事業場も2028年(令和10年)4月1日から義務化されます。(2026年9月28日時点)
- 施行日: 2028年(令和10年)4月1日。2026年6月10日公布の政令で確定。施行日から1年以内(2029年3月31日まで)に最初のストレスチェックを実施
- 対象: 労働者数50人未満の事業場(企業全体ではなく事業場単位で判断)。50人以上の事業場は2015年12月から義務
- 50人未満の主な特徴: 労働基準監督署への報告義務なし/衛生委員会に代えて関係労働者の意見聴取/外部委託を推奨
- 集団分析: 引き続き努力義務。2027年4月1日から「特定の個人を識別することができない方法」で実施することが規則に明記
- 公的支援: 地域産業保健センターによる無料の医師面接指導、団体経由産業保健活動推進助成金(令和8年度は2026年7月10日に受付終了)
労働者の健康管理は、企業の持続的な成長に不可欠な経営課題です。職場における心理的負担(ストレス)が増加する中、予防的措置として2015年12月より労働安全衛生法に基づきストレスチェック制度が施行されました。
現在、同法第66条の10に基づき、常時50人以上の労働者を使用する事業場には年1回の実施が義務化されています。一方、これまで努力義務とされてきた50人未満の事業場についても、2025年5月14日公布の改正労働安全衛生法により実施が義務化され、2026年6月10日公布の政令で2028年(令和10年)4月1日の施行が確定しました。施行日から1年以内(2029年3月31日まで)に最初のストレスチェックを実施する必要があり、小規模事業場の経営者や人事担当者にとっても、施行前から体制整備を開始することが将来の法的・経営リスク回避の鍵となります。
規模による格差も依然として大きい状況です。厚生労働省の「令和7年労働安全衛生調査(実態調査)」(2026年8月7日公表)では、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所のうちストレスチェックを実施している割合は、50人以上で89.8%、30~49人で58.4%、10~29人で55.9%でした。そもそもメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合も、50人以上の93.7%に対し10~29人では54.6%にとどまっており、事業所全体でみた小規模事業場の実施率は、これらの数値よりさらに低くなります。
本コラムでは、ストレスチェック制度の法的要点と、義務化の対象となる50人未満の事業場が取り組むべき具体的な実施方法、コンプライアンス上の重要ポイント、活用できる公的支援策について解説します。
また、本記事はストレスチェック及び50人未満の事業場への義務化に関する知識・実施方法を網羅的に解説していますので、1万文字を超えるボリュームとなっています。
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本記事でわかること
- ストレスチェック義務化の法的要点、現行制度の概要、および50人未満の事業場への義務化(2028年4月1日施行)の最新情報
- ストレスチェックを実施しないこと、または事後措置を怠った場合に企業が直面する具体的なリスク(安全配慮義務違反、民事賠償責任、経済的損失)
- 義務化に備えるための具体的かつ実務的な実施方法の構築ステップと、50人未満の事業場における外部委託の最適な活用方法
- 50人未満の事業場が活用できる公的支援制度「団体経由産業保健活動推進助成金」の令和8年度の受付状況と、令和9年度に向けた申請準備方法、地域産業保健センターなどの無料支援
- 一般社団法人日本産業カウンセラー協会(JAICO)が提供するストレスチェック支援サービスと、JAICOストレスチェックアドバイザー®について
目次
1. 企業経営におけるストレスチェックの戦略的意義

ストレスチェック制度の導入は、法令遵守だけでなく、企業の生産性向上、人材定着、企業価値向上を図るための戦略的な健康経営投資として位置づけられます。
1-1. 義務化の背景にある深刻な経済的損失
ストレスチェックやメンタルヘルス対策を怠る最大のリスクは、不調に起因する経済的損失です。メンタルヘルス不調は、パフォーマンス低下(プレゼンティーズム)や欠勤・休職(アブセンティーズム)を通じて、日本経済全体に影響を与えています。
産業医科大学などの研究結果では、メンタルヘルス不調による生産性損失額は年間7.6兆円に上ると推計されています。これは国内総生産(GDP)の1.1%に相当する巨大な規模です。このデータは、ストレスチェックを単なる「コスト」ではなく「戦略的投資」として捉える必要性を示しています。
また、高ストレス者は離職リスクが高いことがコホート研究で示されており、特に男性高ストレス者の離職リスクはハザード比2.86(約3倍)と著しく高い結果です。ストレスチェックによる高ストレス者の早期発見と適切な介入は、人材定着率の改善に直結します。
1-2. ストレスチェック制度の三つの柱
ストレスチェック制度の目的は、メンタルヘルス不調の発生を未然に防ぐ「一次予防」にあります。この制度は、以下の3つの段階で構成されます。
- セルフケア: 定期検査で労働者自身にストレス状況の気づきを促し、セルフケアを促進。
- 個別対応: 高ストレス者に対し、医師による面接指導を通じて早期に専門的なサポートを提供。
- 職場改善: 集団分析により職場環境の構造的課題を特定し、改善策を実行して不調の発生自体を防止。
特にストレスチェック実施後の集団分析に基づく職場改善のサイクルを回すことが、企業の安全配慮義務の履行と、持続的な生産性向上に寄与します。
2. ストレスチェック制度の概要と50人未満の事業場の動向

ストレスチェック制度は、労働安全衛生法に基づき実施されており、事業者はその法的要件を厳密に把握する必要があります。
2-1. 現行の義務対象(常時50人以上の事業場)の定義
現行法でストレスチェックの実施が義務化されているのは、労働安全衛生法第66条の10に基づき「常時50人以上」の労働者を使用する事業場です(労働者数50人未満の事業場は、当分の間、努力義務とされてきました)。
「常時50人以上」の厳密な解釈
「常時50人以上」とは、一時的に50人未満になることがあっても、常態として雇用している労働者の数で判断されます。また、判断の単位は企業全体ではなく事業場単位(本社・支店・営業所・店舗・工場など)です。
- 人数のカウント: 正社員に加え、常態として使用しているパートタイム労働者・アルバイトも含めて数えます。
- 実際に受検の対象となる労働者: 以下の2つの条件を満たす者です(なお、週の労働時間が4分の3未満でも、おおむね2分の1以上の者には実施することが望ましいとされています)。
- 契約期間の定めがない、または1年以上の契約期間がある者(契約更新により1年以上使用されることが予定されている者を含む)。
- 1週間の労働時間数が、同種の業務に従事する通常の労働者の所定労働時間数の4分の3以上である者。
- 派遣労働者への適用: ストレスチェックの実施義務は派遣先ではなく、派遣元事業者に課されます。
常時50人以上の事業場は、ストレスチェックの実施(年1回)に加え、産業医の選任義務や、実施状況を労働基準監督署へ毎年報告する義務も負っています。
| 事業場の規模 | ストレスチェック実施義務 | 産業医の選任義務 | 労働基準監督署への報告義務 |
|---|---|---|---|
| 常時50人以上 | 義務(年1回) | 義務 | 義務(様式第6号の3) |
| 常時50人未満 | 2028年4月1日から義務(現在は努力義務) | 選任義務なし(外部機関・地域産業保健センターの活用) | 義務なし |
2-2. 従業員50人未満の事業場への義務化の時期と最新動向
2025年5月14日に「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年法律第33号)が公布され、これまで努力義務だった50人未満の事業場にも、ストレスチェックの実施が義務化されました。施行日は「公布後3年以内に政令で定める日」とされていましたが、2026年6月10日公布の政令(令和8年政令第195号)により、2028年(令和10年)4月1日に確定しています。
50人未満の事業場は、施行日から1年以内(2029年3月31日まで)に最初のストレスチェックを実施する必要があり、その後は年1回の実施が求められます。義務化までの準備期間は、2026年9月時点で残り約1年半です。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2015年12月 | 常時50人以上の事業場でストレスチェック制度が義務化(50人未満は当分の間、努力義務) |
| 2025年5月14日 | 改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)が公布され、50人未満の事業場への義務化が決定 |
| 2026年2月25日 | 厚生労働省が「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表 |
| 2026年6月10日 | 施行期日を定める政令が公布され、施行日が2028年4月1日に確定 |
| 2026年6月30日 | 労働安全衛生規則の一部を改正する省令が公布(集団分析を「特定の個人を識別することができない方法で」実施することを明記) |
| 2027年4月1日 | 集団分析に関する規則改正が施行 |
| 2028年4月1日 | 労働者数50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化 |
| 2029年3月31日 | 50人未満の事業場が最初のストレスチェックを実施する期限(施行日から1年以内) |
50人未満の事業場に適用される主なルールは、次のとおりです。
- 事業場単位で判断: 会社全体で50人を超えていても、拠点ごとに50人未満であれば2028年4月1日から義務の対象
- 労働基準監督署への報告義務なし: ただし、常時50人以上を使用する事業場になれば報告が必要
- 衛生委員会の設置義務なし: 導入前に「関係労働者の意見聴取」を行い、社内ルールを定めて周知
- 外部委託を推奨: プライバシー保護の観点から、実施者・実施事務従事者を外部機関が担う体制が推奨
- 集団分析は努力義務: 職場環境改善に役立つため、実施が望ましい
- 労働者本人に受検義務はない: 義務を負うのは事業者
50人未満の事業場の多くが体制整備に着手できていない現状は、施行日に多くの事業場がコンプライアンス違反状態に陥る可能性を示唆しています。このため、施行日を待たずに、実行可能で継続性のある体制構築を速やかに開始することが必須要件となります。
3. ストレスチェックを実施しないことによる企業の多大なリスク

ストレスチェックを実施しない、または事後対応を怠ることは、義務化や法令遵守の枠を超え、企業の経営基盤を脅かす深刻なリスクに直面します。
3-1. 罰則と行政指導のリスク
ストレスチェックそのものの実施義務違反に対する直接的な罰則は現行法上ありませんが、関連する義務違反には罰則が適用されます。
特に、常時50人以上の事業場が労働基準監督署への実施状況の報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合には、労働安全衛生法に基づき50万円以下の罰金が課せられる可能性があります。
50人未満の事業場は、2028年4月1日の義務化後も労働基準監督署への報告義務は課されないため、報告義務違反による罰金の対象にはなりません。しかし、実施義務そのものは課されるため、未実施のまま放置すれば、是正指導などの行政指導の対象となり得ます。義務化前でも、健康管理が不十分と判断された場合には、企業の信用を毀損する事態を招く可能性があります。
3-2. 経営を揺るがす安全配慮義務違反と民事賠償責任
企業にとって最も重大なリスクは、労働契約法や民法に基づき課せられている安全配慮義務違反です。この義務は事業場規模に関わらず適用され、メンタルヘルス対策の不備は高額な民事賠償責任につながり得ます。
法的責任を招く対応不備
ストレスチェックの結果、高ストレス者からの面接指導の申し出を拒否したり、面接指導後の医師の意見(業務軽減など)に基づく適切な措置を怠ったりした場合、企業は安全配慮義務違反に問われ、労働者またはその遺族からの損害賠償請求の対象となります。
判例の教訓
奈良地裁判決(令和4年5月31日)では、ストレスチェックと面接指導を実施したにもかかわらず、医師が指摘した業務量に関する事項を雇用者側が放置したことが、職員の自死に対する安全配慮義務違反を認定する一因とされました。この判例は、制度を実施したという「形骸化」が最も危険であり、適切な事後措置の徹底と記録が、訴訟リスク回避の最重要課題であることを示唆しています。
3-3. 採用・人材定着面における企業ブランド毀損のリスク
メンタルヘルス対策の不十分さは、高ストレス者の離職増加だけでなく、新規採用市場での企業イメージ低下にもつながります。
また、ストレスチェックの結果や面接指導の申し出を理由として、労働者に対し、解雇、雇止め、退職勧奨、不当な配置転換などの不利益な取扱いをしてはならないことが指針で定められています。不利益な取扱いが発生した場合、企業の評判低下や採用難に直結します。
| リスク | 具体的な不利益 | 法的根拠/影響 |
|---|---|---|
| 法的罰則 | 50万円以下の罰金 | 労働安全衛生法違反(常時50人以上の事業場による実施報告の虚偽・不履行等) |
| 行政指導 | 是正指導などの対象 | 実施義務違反(50人未満の事業場は2028年4月1日以降) |
| 民事賠償 | 損害賠償請求(数千万円規模の可能性) | 安全配慮義務違反(民法415条など) |
| 訴訟リスク | 面接指導や事後措置の不徹底による敗訴 | 奈良地裁判決 令和4年5月31日 など |
| 経営リスク | 生産性の低下、優秀な人材の離職 | メンタルヘルス不調による年間経済損失 7.6兆円 |
4. 義務化対応のための実践的な実施方法構築ステップ

50人未満の事業場が2028年4月1日の義務化を見据え、コンプライアンスと実効性を両立させる体制を構築するためには、計画的な準備が必要です。
4-1. 実施前の準備と衛生委員会での審議事項
ストレスチェック導入には、法令遵守と従業員の信頼確保のため、明確なルール設定が必要です。労働者数50人以上の事業場では衛生委員会での調査審議が必要ですが、衛生委員会の設置義務がない50人未満の事業場では、「関係労働者の意見聴取」(労働安全衛生規則第23条の2)で足ります。定例ミーティングや朝礼などの場を活用して意見を聴き、決定した内容は、50人以上では「ストレスチェック規程」、50人未満では「社内ルール」として明文化し、全労働者に周知します。
事業者は、以下の事項について、50人以上の事業場は衛生委員会で審議し、50人未満の事業場は関係労働者の意見を聴いたうえで決定します。
- ストレスチェックの実施方法(調査票の内容、実施時期、受検推奨方法)
- 実施者および実施事務従事者の選任
- 面接指導を依頼する医師の選定と、面接指導の実施方法
- 検査結果の管理者と、個人情報を含む結果の管理方法(プライバシー保護含む)
実施体制の役割分担の明確化
ストレスチェック制度では、「実施者」と「人事権を持つ者」の分離が極めて重要です。
- 実務担当者: 実施計画の策定、社内調整、委託先との連絡など運用全体を管理する社内の担当者(50人未満の事業場では衛生推進者や安全衛生推進者が望ましい)
- 実施者: 検査の実施、結果の評価、面接指導の要否判定を行う専門家(医師、保健師、所定の研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師)
- 実施事務従事者: 実施者の指示に基づき、データ入力や記録保存を行う
人事権を持つ者の関与禁止の徹底
受検者に対して人事権を持つ者は、ストレスチェックの実施者および実施事務従事者に指名してはならないと法令で明記されています。50人未満の事業場では、回答者が推測されやすいという事情もあり、外部の専門機関に実施や集計業務を委託することが、コンプライアンスの観点からも効果的です。厚生労働省の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」でも、外部委託が推奨されています。
4-2. 調査票の選定と受検の実施方法
ストレスチェックの質問票は、以下の3つの必須項目を網羅している必要があります。
- 職場の心理的な負担の原因に関する項目(仕事のストレス要因)
- 心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目(心身のストレス反応)
- 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目(周囲のサポート)
厚生労働省は、これら3領域を網羅した「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」の使用を推奨しています。
受検方法の選択肢
ストレスチェックの実施方法は、Web(外部サービス利用)、マークシート、厚生労働省の無料プログラムなどがあります。外部委託サービスを活用すると集計・分析を自動化できるため、担当者の負担を軽減できます。
50人未満の事業場では、厚生労働省が2026年2月に公表した「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(概要版やモデル規程も公開)を参考にすると、自社で決めるべき事項を整理しやすくなります。外部委託先を選ぶ際は、実施体制、料金、面接指導の依頼先、情報管理などを記載した「サービス内容事前説明書」を提出してもらい、比較検討することが推奨されています。
高ストレス者の判断
ストレスチェックの実施者は、回答に基づきストレス状態を評価し、結果を本人に直接通知します。個人の結果は、本人の同意なく事業者に提供されることはありません。高ストレス者の判断は、原則として「心身のストレス反応の評価点数が高い」などの基準で行われます。企業が独自に判定基準を策定することも可能ですが、産業医などの専門家との協議が必要です。
4-3. 高ストレス者への面接指導と事後措置の徹底
高ストレス者と判定され、本人が面接指導を申し出た場合、事業者は医師による面接指導を速やかに実施しなければなりません。面接指導は、高ストレス者全員に自動的に行うものではなく、本人の申出が要件です。産業医の選任義務がない50人未満の事業場では、外部委託先の医師または地域産業保健センター(地さんぽ)の登録医に依頼する形となるため、高ストレス者が出てから探すのではなく、あらかじめ依頼先を決めて社内ルールに明記しておくことが重要です。
事後措置の徹底
面接指導医は、労働者の健康状態に基づき、就業上の措置(業務軽減、配置転換など)について事業者へ意見を述べます。事業者はこの医師の意見を安全配慮義務履行のための「指示」として捉え、必要に応じて措置を講じ、その記録を明確に残すことが必須です。
記録と保存
事業者は、面接指導の結果、医師の意見、そして講じた措置の記録を作成し、5年間保存しなければなりません。この措置の実施と記録こそが、訴訟リスク回避のための決定的な証拠となります。
5. 実施後のフォローアップ:集団分析と職場環境改善

ストレスチェックは、個人の健康状態把握に加え、組織全体の構造的課題を特定し、改善に繋げるために活用することが重要です。
5-1. 集団分析の目的と活用方法
ストレスチェック実施後の集団分析は、法令上は努力義務ですが、職場環境改善には不可欠なステップです。この位置づけは、2028年4月1日以降の50人未満の事業場でも変わりません。
分析単位とプライバシー保護
集団分析は、個人が特定されない方法で行う必要があります。集計・分析の単位が10人を下回る場合は個人が特定されるおそれがあるため、原則として実施しません。10人未満でも、調査票全57項目の合計点の平均値を求める方法や「仕事のストレス判定図」を用いる方法など、個人が特定されるおそれのない方法であれば実施できますが、極端に少人数の場合は不適切です。事業場自体が小規模な場合は、10人以上のより大きな集団を構成するなどの工夫が必要です。
なお、2026年6月30日に労働安全衛生規則第52条の14が改正(令和8年厚生労働省令第112号、施行は2027年4月1日)され、集団分析は「特定の個人を識別することができない方法で」実施することが明記されました。これは従来の解釈を明文化したもので、実施の運用を変えるものではありません。
多角的なデータ統合による評価
集団分析の結果を有効活用するためには、ストレスチェックの結果だけでなく、社内サーベイランスデータ、ハラスメント相談窓口の状況、産業医・保健師の意見、人事面談情報など、多角的なデータと統合して評価することが推奨されます。これにより、データだけでは見えにくい組織文化やマネジメント層に起因する構造的課題を特定し、改善の優先順位を設定できます。
5-2. 集団分析に基づく効果的な職場環境改善サイクルの回し方
50人未満の事業場がストレスチェックの義務化に備える際は、リソース負担を考慮し、継続性のある体制を段階的に構築することが重要です。
- 1年目: 法的義務(実施と面接指導体制の整備)に注力
- 2年目:集団分析を導入し、結果を衛生委員会などで共有
- 3年目以降:集団分析結果を活用し、具体的な職場環境改善施策(業務の効率化、研修など)を計画・実行・評価するPDCAサイクルを定着
ノウハウがない場合は、外部委託サービスを通じて、専門的なデータ分析や改善計画策定の支援を受けることが効果的です。
6. 【50人未満の事業場向け】体制構築を支援する公的サポートと留意点

50人未満の事業場がストレスチェックの義務化に備える際、費用負担も課題の一つです。国は中小企業向けに産業保健活動を支援するための助成制度や、無料で利用できる公的支援を設けています。
6-1. 団体経由産業保健活動推進助成金の活用戦略
個別企業向け助成制度は2022年度末までで廃止されました。現在(2026年9月時点)、50人未満の事業場が産業保健サービスの費用助成を受けるには、「団体経由産業保健活動推進助成金」を活用することが最も有力です。
助成の仕組みと要件
この助成金は、商工会などの事業主団体が主体となって申請し、傘下の中小企業にサービスを一括提供する形式をとります。個々の企業が直接申請することはできません。
- 助成率と上限額: 助成対象経費の90%が助成され、1事業主団体あたり年間500万円(一定の要件を満たす団体は1,000万円)が上限です(1団体につき年度ごとに1回限り)
- 対象サービス例: 医師等による健康診断結果の意見聴取、ストレスチェック後の職場環境改善支援など、団体が傘下の中小企業に提供する産業保健サービスが対象です(対象範囲は年度ごとの手引で確認してください)
留意事項
この助成金は予算制約が大きく、予算上限に達すると年度途中で受付が終了します。令和8年度(2026年度)は6月10日に受付が始まり、予算上限に達したため2026年7月10日に受付が終了しました。50人未満の事業場は、令和9年度(2027年度)の申請に向けた計画を早期に策定し、所属団体との連携を強化する必要があります。
| 項目 | 団体経由産業保健活動推進助成金(令和8年度版)の概要 | 戦略的活用ポイント |
|---|---|---|
| 目的 | 中小企業への産業保健サービス提供費用の一部助成 | 対象サービスの費用負担を大幅に軽減可能 |
| 助成率 | 助成対象経費の90% | 質の高い専門的なサービス導入を予算的に可能にする |
| 申請主体 | 個別企業ではなく、商工会などの事業主団体 | 自社が加入する団体の対応状況を即座に確認し、連携を確立する |
| 申請状況 | 令和8年度は2026年7月10日に予算上限に達して受付終了 | 義務化に備え、令和9年度の募集に向けた早期の準備が必須 |
助成金以外の無料の公的支援
助成金とは別に、50人未満の事業場が無料で利用できる公的支援も用意されています。
- 地域産業保健センター(地さんぽ): 全国約350か所。労働者数50人未満の事業場を対象に、高ストレス者などへの医師の面接指導を無料で提供
- 産業保健総合支援センター(さんぽセンター): 47都道府県に設置。ストレスチェック制度の導入相談、事業場への訪問支援、研修を無料で提供
- ストレスチェック制度サポートダイヤル: 電話0570-031050(平日10時~17時)で導入・実施の相談に対応
- 厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム: 無料で利用できる実施プログラム
6-2. 産業保健サービスを効率的に導入する実施方法
50人未満の事業場がストレスチェック制度を導入するにあたり、法的コンプライアンスの確保と事務負担の軽減を両立させる上で、外部委託は有効な実施方法の一つです。
外部委託の範囲と限界
外部の専門機関には、ストレスチェックの設問の用意、実施、集計・分析、面接指導の実施、相談窓口対応などを委託できます。
しかし、以下の業務は、事業者の責任範囲であり、外部委託できません。
- 高ストレス者に対する就業上の措置(配置転換や業務軽減の決定)
- 面接指導医からの意見聴取
- 衛生委員会での審議(50人未満の事業場は関係労働者の意見聴取)
- 集団分析の結果に基づく職場の改善
ストレスチェックの実施においては、「業務の丸投げ」ではなく、外部の専門家と社内の経営層・管理職が密接に連携し、措置決定という核心的なリスク管理業務を事業者が担う仕組みづくりが成功の鍵となります。
7. (一社)日本産業カウンセラー協会のストレスチェック実施支援と強み

ストレスチェック制度の実効性を高め、義務化や法令遵守の枠を超えた真の職場改善を実現するためには、専門性の高い外部資源の活用が不可欠です。カウンセリングとメンタルヘルス支援の専門家団体である一般社団法人日本産業カウンセラー協会(JAICO)は、ストレスチェックの支援において独特の強みを持っています。
7-1. 外部の専門家を活用するメリット
ストレスチェック制度は、検査の実施以上に「事後措置」と「職場改善」が法的責任と経営効果の鍵を握ります。しかし、社内の人事担当者や管理職が、高ストレス者への初期対応や集団分析結果の活用といった専門的役割を果たすことは困難です。
特に50人未満の事業場では、人事担当者がストレスチェックの事務を担うケースが多く、人事権を持つ者の関与禁止といった実施方法のコンプライアンス維持に課題が生じやすい傾向があります。
これらの課題に対し、一般社団法人日本産業カウンセラー協会が育成・認定しているJAICOストレスチェックアドバイザー®(登録商標)は、ストレスチェック制度創設の背景や厚生労働省の指針に基づいた専門的な支援を提供します。
7-2. JAICOストレスチェックアドバイザー®の役割と専門性
JAICOストレスチェックアドバイザー®は、単にストレスチェックの事務を行うだけでなく、産業カウンセラーとしての専門的な知見と高度なコミュニケーション能力を活かし、職場のメンタルヘルス課題に深く介入します。
厚生労働省の指針が示す主要な役割
JAICOストレスチェックアドバイザー®は、以下の3つの役割において企業の義務履行と職場改善を支援します。
- 高ストレス者の選定における補足的面談: 判定基準だけでは見落とされがちな潜在的なリスクを、短時間の傾聴を通じて正確に把握し、医師への円滑な連携をサポートします
- ストレスチェック結果の通知後の相談対応: 検査結果を受けた労働者の不安や疑問に対し、守秘義務を遵守しながら適切な相談対応を行い、セルフケアを促します
- 集団ごとの集計・分析及び職場環境の改善: 集団分析の結果を基に、単なるデータ報告に留まらず、職場の構造的な課題を特定し、管理職や衛生委員会に対して具体的な改善計画の策定をファシリテーションします
独自の強み
JAICOストレスチェックアドバイザー®の強みは、産業カウンセラーならではの「傾聴力」です。傾聴によって、まずは担当者や相談者と信頼関係を築けるように努めてまいります。
また、必要な情報を集めて的確に提案するための情報収集能力、そして建設的な議論を成立させるためのファシリテーション能力などを通じて、ストレスチェック制度の形骸化を防ぎ、効果的なメンタルヘルス対策を実現できるようにサポートいたします。
7-3. 【よくある質問】ストレスチェック義務化と実施方法に関するQ&A
Q1. ストレスチェックの義務化はいつから?50人未満の事業場も対象ですか?
A. はい、労働者数50人未満の事業場も、2028年(令和10年)4月1日から義務化されます。施行日から1年以内(2029年3月31日まで)に最初のストレスチェックを実施する必要があります。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、2015年12月からすでに義務化されています。これまで努力義務だった50人未満の事業場についても、2025年5月14日公布の改正労働安全衛生法により実施が義務化され、2026年6月10日公布の政令で施行日が2028年4月1日に確定しました。義務の対象かどうかは、企業全体ではなく事業場単位で判断します。50人未満の事業場の経営者や人事担当者は、施行日を待つことなく、外部委託などを活用した実施方法の検討を早期に始めることが賢明です。
Q2. 義務化されたストレスチェックの実施において、企業が最も注意すべき「安全配慮義務」とは何ですか?
A. 高ストレス者への面接指導の実施と、医師の意見に基づく就業上の措置の徹底です。
ストレスチェックを実施したことで、企業は労働者の高ストレス状態を法的に認識したことになります。この情報に基づき、高ストレス者からの面接指導の申し出を拒否したり、面接指導後の医師の意見に反して適切な措置を怠ったりした場合、企業は労働契約法上の安全配慮義務違反に問われ、高額な民事賠償請求につながります。実施方法としては、面接指導後の医師の意見を聴取し、講じた措置の記録を5年間保存することが、法的防御の観点から最重要です。
Q3. 50人未満の事業場がストレスチェックを実施する際、費用を抑える方法はありますか?
A. 「団体経由産業保健活動推進助成金」や、地域産業保健センターの無料サービスなどの公的支援を活用できます。
ストレスチェックの実施費用は事業者負担が原則ですが、国は50人未満の事業場向けの支援策を用意しています。「団体経由産業保健活動推進助成金」は、ストレスチェック後の職場環境改善支援などの産業保健サービスの費用について、経費の90%(上限500万円、一定の要件を満たす団体は1,000万円)が助成される制度です。ただし、個別の企業が直接申請することはできず、商工会や業界団体などの事業主団体を経由して申請する必要があります。令和8年度は2026年7月10日に予算上限に達して受付が終了しているため、令和9年度に向けて所属団体への早期確認が不可欠です。また、地域産業保健センター(地さんぽ)では、50人未満の事業場を対象に、高ストレス者などへの医師の面接指導を無料で受けられます。厚生労働省が無料で提供している実施プログラムを使う方法もあります。
Q4. ストレスチェックの実施者は誰がなれますか? 人事権を持つ者ではダメですか?
A. 実施者になれるのは専門家(医師、保健師など)のみで、人事権を持つ者は法令により禁止されています。
ストレスチェックの実施者は、検査の実施、評価、面接指導の要否判定を行う重要な役割を担います。実施者になれるのは、医師、保健師、または所定の研修を修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師などの専門資格保有者です。特に重要な法的なルールとして、受検者に対して人事権を持つ者(社長、人事部長など)は、労働者の心理的な負担軽減のため、実施者および実施事務従事者になることが法律で明確に禁止されています。50人未満の事業場では、実施者と実施事務従事者を外部機関に委託する方法が推奨されています。この規定を遵守した実施方法を確立することが、制度の信頼性を保つ上で必須です。
Q5. ストレスチェックの集団分析は義務化されていますか? また、集団分析結果を職場の改善にどう活かせますか?
A. 集団分析の実施自体は「努力義務」ですが、一次予防と職場改善には不可欠です。
ストレスチェックの実施方法において、部署やチームといった集団分析は、現行法では義務化されておらず努力義務とされており、2028年4月1日以降の50人未満の事業場でも変わりません。しかし、集団分析は、個人の問題ではなく、業務量や上司からのサポート不足といった職場環境の構造的な課題を客観的に特定する唯一の方法です。これは、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ「一次予防」の核心です。集団分析の結果を社内データと統合して評価することで、最もリスクの高い部署から優先的に改善策(業務効率化、コミュニケーション研修など)を実行するPDCAサイクルを回すことができます。なお、2027年4月1日施行の労働安全衛生規則の改正により、集団分析は「特定の個人を識別することができない方法で」実施することが明記されます。集計単位が10人を下回る場合は原則として実施せず、10人以上の集団を構成するなどの工夫が必要です。
Q6. 50人未満の事業場でも、労働基準監督署への報告や罰則はありますか?
A. 50人未満の事業場に労働基準監督署への報告義務は課されませんが、ストレスチェックの実施義務は課されます。
労働基準監督署への実施状況の報告義務があるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。50人未満の事業場は、2028年4月1日以降も報告は不要ですが、増員や事業場の統合などで常時50人以上になった場合は報告義務が生じます。報告義務がないことは実施義務が免除されることを意味しないため、未実施のまま放置すれば、是正指導などの行政指導の対象となり得ます。さらに、高ストレス者への対応を怠って労働者がメンタルヘルス不調に陥った場合は、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われるリスクがあります。なお、報告の不履行や虚偽報告に対する50万円以下の罰金は、報告義務のある常時50人以上の事業場に適用されるものです。
8. まとめ

本記事では、ストレスチェック義務化への対応、リスク管理、具体的な実施方法について網羅的に解説いたしました。
ストレスチェック義務化は、従業員50人未満の事業場にとって、2028年4月1日の施行が確定した待ったなしの課題です。これは、単なる法規制ではなく、企業が抱える潜在的な経済的損失や法的リスク(安全配慮義務違反)を回避し、生産性を高めるための重要な経営施策です。
特に50人未満の事業場においては、助成金制度や地域産業保健センターなどの公的支援の活用、一般社団法人日本産業カウンセラー協会のJAICOストレスチェックアドバイザー®のような専門家との連携が、コンプライアンス体制を構築するために有効となります。まずは、①事業場ごとの労働者数を確認し、②外部委託先と面接指導の依頼先の候補を決め、③関係労働者の意見聴取と社内ルールの整備、年間予算への計上を進めましょう。
早期に体制構築に着手することで、義務化に対応するだけでなく、従業員が健康で活き活きと働ける職場を実現し、企業価値向上へとつなげていきましょう。
8-1. 資料ダウンロード
複雑な法的要件、リスク管理、そして実務的な実施方法について、さらに深く理解し、貴社の体制構築をスムーズに進めるための資料もご用意いたしました。一般社団法人日本産業カウンセラー協会が提供している支援内容についても、詳細を掲載しています。
企業の義務と従業員のプライバシー保護を両立させ、確実なコンプライアンス体制を構築するため、ぜひこの資料をご活用ください。お申し込み後、すぐにダウンロードいただけます。
参考文献
本コラムの作成にあたっては、厚生労働省および関係機関が公表している以下の資料を主に参照しています。
法令・指針
- 労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令、労働安全衛生規則(ストレスチェック制度の法的根拠)
- 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)/同法の一部の施行期日を定める政令(令和8年政令第195号)
- 労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について(令和8年6月30日付け基発0630第2号)(厚生労働省)
- 心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業主が講ずべき措置に関する指針(厚生労働省)
制度マニュアル・ガイドライン
- ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策(厚生労働省)
- 労働者数50人未満の小規模事業者の方(厚生労働省)
- 小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(厚生労働省、令和8年2月公表)
- 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(厚生労働省)
- 職業性ストレス簡易調査票(厚生労働省)
調査・検討資料
- 令和7年労働安全衛生調査(実態調査)の結果を公表します(厚生労働省、令和8年8月7日)
- 労働政策審議会安全衛生分科会(第185回、令和8年5月18日開催)資料(厚生労働省)
- ストレスチェック制度などのメンタルヘルス対策に関する検討会 資料(厚生労働省)
助成金関連
※本記事は2026年9月28日時点の情報をもとに更新しています。法令等は変更になる場合があります。最新情報は各公的機関の公式サイトをご確認ください。
この記事の執筆者

鈴木 勇太(すずきゆうた)
1988年生まれ。福岡医療福祉大学人間社会福祉学部臨床医療福祉学科卒業。2010年に産業カウンセラー、2015年にキャリアコンサルタント取得。一般社団法人日本産業カウンセラー協会広報・広告部。
https://kyushu.counselor.or.jp/member_suzuki/
この記事の監修者

木村 潤(きむらじゅん)
1960年生まれ。宮崎大学大学院工学研究科工業化学専攻修了。一般社団法人日本産業カウンセラー協会九州支部支部長。
https://kyushu.counselor.or.jp/about/about02/
